科学的主張に対する直接攻撃と間接攻撃
科学的主張に対する直接攻撃と間接攻撃(ad hominem)の有効性を検討した2018年の研究
439人の大学生(実験1)と199人の大人(実験2)が参加
科学的主張に対する参加者の態度が提示される攻撃の種類によって影響を受けるか分析
(主張とは直接関連しない)人格攻撃(不正や利益相反)であっても、科学的主張に対する(合理的な)指摘と同様に参加者の科学的主張に対する態度に負の影響を与えた
相手の主張を打ち破る論法にはさまざまな種類がありますが、その中でもad hominem(人格攻撃)は(残念ながら)幅広く用いられています。
例えば、地球温暖化の証拠を提出している人に「この人物の経歴は信用ならない」とか「学歴がしっかりしていない」と言うようなものが人格攻撃にあたります。
さて、今回は人格攻撃がなぜ頻繁に用いられるのかについて考えてみましょう。
科学的主張に対する直接攻撃と間接攻撃(ad hominem)の有効性を検討した2018年の研究では、439人の大学生(実験1)と199人の大人(実験2)が参加して、科学的主張に対する参加者の態度が提示される攻撃の種類によって影響を受けるかを分析しました。
その結果、(主張とは直接関連しない)人格攻撃(不正や利益相反)であっても主張に対する(合理的な)指摘と同様に参加者の科学的主張に対する態度に負の影響を与えることがわかりました。
残念ながら、人格攻撃は有効であるということがこの研究では明らかにされた(したがって、多くの人が用いている)わけですが、科学的な主張に対する反論は本当に人格攻撃でよいのでしょうか?
もちろん、個人が過去に不正をしていたことや現在も不正をしていること、または利益相反の証拠があるということは、その個人が持つ科学的な証拠が実際には誇張されていることや誇張する動機が高いことを意味しているかもしれませんが、科学的な理論や仮説、予測というものは世俗とは関係のないものです。
もし、人格攻撃で科学的な主張の是非を決めて良いのであれば、それは多くの人に支持される人が主張する言説が正しく、そうでない人が主張する言説は正しくないというものになってしまいます。
これでは、単なる人気取りゲームと変わりません。
ある人と仲良くするかどうかを決める時には、その人が今言っていることだけではなく、過去に何をしていたかやどういう動機を持っているかなどを考慮して、いわゆる「悪い人だ」と思えば付き合わなければ良いかもしれませんが、科学はそうはいきません。
過去の科学者(研究者)がどのような性格だったか、どんな動機づけを持っていたかなどには関係なく、(仮に既にある証拠を歪めてしまうことが懸念される情報があったとしても)その人物が行なっていた科学的主張を拒否して良い理由には、残念ながらなりません。
たとえ一部の人に利益相反が確認されても、不正の証拠が見つかっても、科学的な主張に対する反論は科学的な主張によってのみなされるべきなのです。
参考文献:
Barnes, R. M., Johnston, H. M., MacKenzie, N., Tobin, S. J., & Taglang, C. M. (2018). The effect of ad hominem attacks on the evaluation of claims promoted by scientists. PLoS One, 13(1), e0192025.