不利な発達環境と顔の非対称性
17歳〜18歳の参加者(503名)を集め、複数の測定項目を用いてどの程度顔が完全な対称性から逸脱しているのか調べた2010年の研究
スラム街の参加者の顔の非対称性は裕福な都市部の参加者の顔の非対称性に比べて有意に高い
男子高校生の方が女子高生よりも顔の非対称性は高く、この傾向はスラム街の参加者の方が高い
男性の方が女性よりも劣悪な環境の影響を受けやすいことを示唆
「顔は性格を表す」というようなことは日常会話の場面ではよく言われることかもしれませんが、これはどれだけ妥当性があるのでしょうか?
今回は、「性格」とは少し違いますが、環境がどのように顔を形成するのかについて考えてみましょう。
実は、顔というのは遺伝的に決まるだけでなく、環境の影響を受けます。
具体的には、進化心理学では病原体などに曝されると左右対称から逸脱するように発達すると考えられています。
これは、正常な発達が高ストレスによって妨げられるからです。
理論的にはそう考えられていますが、実際にはどうなのでしょうか?
2010年の研究は環境の劣悪さと顔の非対称性を検討する上でうってつけのデータを提供しています。
この研究ではトルコのスラム街と裕福な地域から17歳〜18歳の参加者(503名)を集め、複数の測定項目を用いてどの程度顔が完全な対称性から逸脱しているのかを調べました。
その結果、スラム街の参加者の顔の非対称性は裕福な都市部の参加者の顔の非対称性に比べて有意に高いことがわかりました。
さらに興味深いのは、男子高校生の方が女子高生よりも顔の非対称性は高く、この傾向はスラム街の参加者の方が高かったということです。
これは、男性の方が女性よりも劣悪な環境の影響を受けやすいということを示唆しています。
「貧乏人は顔が歪んでいる」ということをまさに表すような研究だったというわけです。
この研究がどこまで一般化されるのか、どれほどの効果量があるのか(研究内では非対称性を検出できたが、これは日常的に知覚できるレベルの差なのか)というようなことは分かりませんが、発達環境において高いストレスはヒトにおいて非対称性の増加につながるという進化心理学においてよく信じられている言説を裏付ける重要な知見を提供していることは間違いありません。
参考文献:
Özener, B., & Fink, B. (2010). Facial symmetry in young girls and boys from a slum and a control area of Ankara, Turkey. Evolution and Human Behavior, 31(6), 436-441.