時間割引の社会生態学的要因
将来を割り引く傾向の社会生態学的要因を検討した研究
社会経済的変遷は割引を減少させる
食料貯蔵や富の蓄積が難しい社会(狩猟採集など)と食料貯蔵や富の蓄積が可能な社会(農耕など)は時間割引に関して適応的な戦略が異なるということ
突然人がやってきて、「今日1個お菓子を貰うか、明日5個お菓子を貰うか、どっちがいい?」と聞かれたらどう答えるのでしょうか?
これは時間割引を測定する方法の例の1つで、1個のお菓子を選ぶ人は将来を割り引いた、時間割引率が高いなどと表現されます。
ヒトには将来を割り引く傾向があることは知られていますが、この傾向は異なる社会に住む人々の間で一貫しているのでしょうか?
将来を割り引く(より大きな長期的報酬よりも小さな短期的報酬を重視する)傾向の社会生態学的要因を検討した2015年の研究を見てみましょう。
この研究では、社会経済的変遷が割引を減少させることがわかりました。
つまり、市場統合が進んでいないような地域に住む人々は将来の大きな利益よりもすぐに手に入る小さな利益を好んだのに対し、市場統合が進んだ地域に住む人々はこの傾向が弱かったということです。
もっと大雑把に述べるなら、狩猟採集民は割り引きをする傾向が高く、農耕民は割り引きをする傾向が低いというわけです。
この違いは食料貯蔵や富の蓄積が難しい社会(狩猟採集など)と食料貯蔵や富の蓄積が可能な社会(農耕など)は時間割引に関して適応的な戦略が異なるということで説明可能かもしれません。
狩猟採集社会では食糧の入手に関しては不確実性が高く、食糧をたくさん手に入れたとしてもそれは仲間内で分け合う必要性があります。したがって、報酬を将来に遅延することはリスクであり、仮にそのリスクを乗り越えたとしても食糧は自分以外にも分け与えることになります。
一方、農耕民では富の蓄積が可能になり、食糧の入手に関しては不確実性がそこまで高くありません。したがって、報酬を将来に遅延させることがそこまでデメリットでなく、むしろよりたくさんの食糧を手に入れることは蓄積される富が多くなることを意味します。
狩猟採集民の時間割り引きを単に「狩猟採集民は我慢ができないんだ」と考えるのではなく、「なぜ狩猟採集民は我慢を“しない”のか?」という風に考えることが、ヒトについて深く理解する為に必要なのかもしれません。
参考文献:
Salali, G. D., & Migliano, A. B. (2015). Future discounting in congo basin hunter-gatherers declines with socio-economic transitions. PLoS One, 10(9), e0137806.