セクシュアル・ハラスメントの認知の性差
男性上司(加害者)と女性秘書(被害者)が登場する曖昧なセクシュアル・ハラスメントの状況(4つのシナリオ)を男女がセクハラと評価するか調べた2001年の研究
全体的に女性の方が男性よりも状況をセクハラと評価しやすかった
男性上司が魅力的な場合には(魅力的でない場合に比べて)セクハラを行なっていると評価されにくかった
女性秘書が魅力的な場合には(魅力的でない場合に比べて)セクハラを受けていると評価されやすかった
女性だけの評価を見てみると、男性上司が魅力的で女性秘書が魅力的でない場合にはセクハラではないと評価する傾向にあったが、男性上司が魅力的でなく女性秘書が魅力的な場合にはセクハラと評価する傾向が高かった
セクシュアル・ハラスメントの話題でよく上がるのは、「どこからがセクハラで、どこまではセクハラではないか」ということです。
(進化心理学的に)この問題はなかなか難しいと言えるかもしれません。
なぜなら、私たち人間は正確な判断をすることが得意ではなく、むしろ個人やそれぞれの性別が直面する問題を解決する為に、多くのバイアスがかかっています(全く同じ状況でも、誰が誰に対して行為を行っているかで異なる評価が与えられることはよくある)。
今回は、男性と女性がどのように、ある状況をセクハラと評価するのかについて考えてみましょう。
少し複雑ですが、お付き合いいただけたらと思います。
男性上司(加害者)と女性秘書(被害者)が登場する曖昧なセクシュアル・ハラスメントの状況(4つのシナリオ)を男女がセクハラと評価するか調べた2001年の研究を見てみましょう。
まず、この研究では男性上司(加害者)と女性秘書(被害者)という組み合わせは変わりませんが、男性上司の魅力と女性秘書の魅力がそれぞれ魅力的かそうでないかで変化します。
組み合わせは以下のようになります。
・男性上司(魅力的)×女性秘書(魅力的)
・男性上司(魅力的)×女性秘書(魅力的でない)
・男性上司(魅力的でない)×女性秘書(魅力的)
・男性上司(魅力的でない)×女性秘書(魅力的でない)
分析の際には評価者の性別(男女)の変数も入りますので、合計で8つの得点を分析するわけです。
それぞれの登場人物の魅力の組み合わせによって、4つのシナリオをセクハラと評価するかどうかが変化するのかを男女を対象に調べたというわけです(図表も無しに理解するのは結構大変だと思いますので、ぜひ論文をご確認ください)。
結果としては、全体的に女性の方が男性よりも状況をセクハラと評価しやすかったことがわかりました。
この時点で比較しているのは、男性評価者と女性評価者の全体的な評価(セクハラの得点)です。
次に、魅力的かどうかがどう影響するのかを見てみましょう。
男性上司が魅力的な場合には(魅力的でない場合に比べて)セクハラと評価されにくかったことと女性秘書が魅力的な場合には(魅力的でない場合に比べて)セクハラと評価されやすかったことがわかりました。
この時点では、男性と女性、どちらの方が高い評価をしたのかや男性上司と女性秘書の魅力の組み合わせの効果は分かりません。とにかく、魅力的な男性上司はセクハラを行なっていると評価されにくいし、魅力的な女性秘書はセクハラを受けていると評価されやすいということです。
最後に女性だけの評価を見てみると、男性上司が魅力的で女性秘書が魅力的でない場合にはセクハラではないと評価する傾向にあったが、男性上司が魅力的でなく女性秘書が魅力的な場合にはセクハラと評価する傾向が高かったことがわかりました(ちなみに、男性上司と女性秘書がどちらも魅力的な場合とどちらも魅力的でない場合は中程度の評価でした)。
あれ、男性だけの評価は?と思った方は鋭いです。
実は、男性の評価は女性の評価ほどわかりやすくなく(つまり、魅力の組み合わせに影響されにくかった)、複雑でしたので、気になる方は論文をご確認ください。
もちろん、セクハラをすることは問題ですが、ある人物が別の人物に対してセクハラをしたと推定されるかどうかは個人の魅力や評価する人物の性別に影響されることがあるということは覚えておかなければいけません。
参考文献:
Golden, J. H., Johnson, C. A., & Lopez, R. A. (2001). Sexual harassment in the workplace: Exploring the effects of attractiveness on perception of harassment. Sex Roles, 45, 767-784.