限られた空間内での遭遇率と再遭遇率
なぜ偶然出会った人に対しても利他的に振る舞うのか?
世界はその中をナビゲートする個人の能力に比べて大きい為、個人の位置は時間の経過とともに自己相関する
つまり、ある個人との偶然の遭遇は、その個人との将来の再遭遇の可能性が高いことを意味する
世界中にはたくさんの進化心理学者がいて、日々、進化がどのようにヒトの心や行動を形成してきたのかについて検討を続けています。
そんな進化心理学者たちが発表する論文の中には、一つずつ調査や実験を続けていく地道なものもありますが、発想の転換となるような“派手”なものもあります。
「なぜヒトは偶然出会った個人に対しても利他的に振る舞うことができるのか」について考えてみましょう。
この疑問は、「進化的適応環境において、どのような要因が、ヒトが偶然出会った個人に対して利他的に振る舞うことを可能にしたのか」と言い換えることができます。
2013年のこの論文では、シミュレーションを使用して上記の問題を検討しており、とても重要なことが指摘されています。
それは、"世界はその中をナビゲートする個人の能力に比べて大きい為、個人の位置は時間の経過とともに自己相関する"ということです。
つまり、人は空間内での限られた範囲しか移動できない為、ある個人との偶然の遭遇は、その個人との将来の再遭遇の可能性が高いことを意味するということです。
中学生や高校生の時を思い出してみると、簡単に理解できます。
地球や日本はとても広いのですが、私たちはある地点から別の地点に移動するとき、ランダムに飛び飛びで移動を行うわけではありません。
北海道に今この瞬間にいる人が、1秒後に沖縄にいることは不可能なのです。
現代社会のような様々な移動手段がなかった祖先の環境では、人々はさらに限定された範囲を移動可能であったと考えられます。
中学生や高校生の時に、登校時や下校時、休日などで友人と偶然会うことが多かったのは、(もちろん、同じ学校に通っていたということは重要ですが)地球というとても大きな空間の中で、個人が限られた範囲(市区町村やそれ以下の空間)でしか移動できなかったからなのです。
「遭遇が"ランダム"でないという考え方は、まさに目からウロコの発想ではないでしょうか?」
参考文献:
Krasnow, M. M., Delton, A. W., Tooby, J., & Cosmides, L. (2013). Meeting now suggests we will meet again: Implications for debates on the evolution of cooperation. Scientific reports, 3(1), 1747.